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肝臓がんは肝臓にできた悪性腫瘍であり、肝臓の細胞から発生した原発性肝がんと他臓器にできたがんが転移した転移性肝がんに分けられます。
原発性肝がんはほとんどが肝細胞から発生する肝細胞癌であり、胆管細胞がんがそれに続きます。転移性肝がんは大腸がんや胃がん、膵臓がんなどが血行性・リンパ行性に転移するもので、治療法は原発により異なります。
日本の疾患別の死亡者数は悪性新生物が第1位であり、肝がんは第5位に位置しています。近年は、肝発がん高リスク集団が減少しているのと同時に、治療法も進歩してきたため減少傾向にあります。
肝細胞がんの原因は2000年ころまではB型肝炎とC型肝炎といったウイルス性肝炎が主たる原因でしたが、2000年以降は非ウイルス性が増加してきています。また、発がん年齢も高齢化しています。
肝臓は沈黙の臓器といわれており、発がんしてもほとんど症状は出現しません。そのため、下記のような検査によって肝細胞がんの診断を行います。
また、肝細胞がんは根治的治療後も高率に再発するため、治療後も定期的な検査で経過を観察することが重要です。
肝細胞がん診断における各々のマーカーの感度は高くありませんが、組み合わせて診断に利用します。
超音波検査は慢性肝炎、肝硬変における肝がんのスクリーニング検査として施行されています。他の画像検査と異なり、放射線被ばくや造影剤による腎障害などの副作用が無く苦痛を伴わないことから、画像検査の第一選択です。また、超音波用の造影剤(ソナゾイド®)の登場により、腫瘍の質的診断が可能となったことで日常診療においてなくてはならない検査です。また、この造影剤は腎機能障害や気管支喘息の方にも問題なく使用できることから安全性も高い検査です。
やや境界不明瞭な低エコー(黒っぽい)腫瘍として観察されます。
肝細胞がんは強く造影され、血流の豊富な腫瘍であることが分かります。
正常な肝臓にはクッパー細胞(肝臓の貪食細胞)に造影剤が取り込まれ高エコーを示し(白くなり)ますが、肝細胞がんの部分はクッパー細胞が存在せず黒く抜けて観察されます。
黒く抜けた部分に目標を絞り、造影剤を再度投与することにより、同部の血流評価がリアルタイムに可能です。
X線を使用して体の断層像を作り出す検査です。肝臓は動脈と門脈の二重血管支配となっています。正常な肝臓は主に門脈から血液が供給されていますが、肝細胞がんは動脈からのみ血流を受けるようになります。その性質を利用して、造影剤注入後数秒~数分経過した後に数回CTを撮像します。肝細胞がんでは動脈や門脈が造影されるタイミングで撮像することにより腫瘍の血流動態が評価可能となります。
強い磁場と電磁波を使用して体の断層像を作り出す検査です。CTと異なり放射線被曝などの問題がなく、組織のコントラストが優れていることが特徴です。骨などの影響も受けにくいため、病変部と正常組織の違いが分かりやすいことが特徴です。また、肝細胞特異性造影剤(EOB・プリモビスト®)を用いたMRIは血流動態に加えて肝細胞機能も評価可能であり、早期の肝細胞がんを検出可能です。
肝細胞癌の治療はこの20年で劇的に進歩しました。当院では、外科的治療から内科的治療、放射線治療までさまざまな治療を組み合わせて治療を行っています。
特に、近年は治療法や治療薬の開発、治療機器の進歩など肝臓がんの治療を取り巻く環境は大きく変化しています。個々の患者さんに最適な治療を提供します。
最も根治的な治療法であり、近年その安全性は向上しています。肝臓に腫瘍が限局しており、3個以下が良い適応とされています。また、非代償性肝硬変を伴う肝細胞癌の中でミラノ基準(脈管浸潤なし・肝外転移なし,腫瘍経5cm以下単発または,3cm以下3個以内)あるいは腫瘍径5cm以内かつ腫瘍数5個以内かつAFP 500ng/mL以下に合致するものは肝移植も考慮されます。
穿刺局所療法には早期肝がん(腫瘍径3cm以下3個以内)に対して行われます。ラジオ波焼灼療法(RFA)、マイクロ波凝固療法(MWA)、エタノール注入療法(PEI)の3つが一般的です。医療機器や造影剤などの画像技術の進歩が著しく、これらの技術が局所治療の安全性と確実性に大きく貢献しています。当院では主にRFAを中心に治療を行っています。特に、腫瘍の大きさにより電極の長さを調節できる可変型電極を用いた複数個穿刺や、双極針を用いた多数本穿刺によるエリア的焼灼(図1)を積極的に行っています。また、別の画像情報であるCTやMRIのイメージをリアルタイムのエコー画像と重ね合わせるFusion imaging(図2)なども用いながら治療を行っています。
腫瘍の血流および腫瘍の境界を正確に評価し、針を挿入する経路を確認します。
腫瘍部を挟み込むように内側と外側に針を刺入し、最後に3本目を頭側に刺入し、腫瘍を取り囲むように3角形を描くように針を留置します。
肝動脈化学塞栓療法(TACE)は中等度進行肝がん(腫瘍数4個以上の手術不能かつ穿刺局所治療の対象外)に対して行われます。当院ではCTアンギオ装置を用いて、細かい血管を同定し、腫瘍のみ選択的に治療を行うことで、肝予備能を低下させないTACEを心がけています。従来のリピオドールと多孔性ゼラチン粒を使用したconventional TACE(c-TACE)のほか、症例に応じて薬剤溶出性球状塞栓物質を用いたDEB-TACE、バルーンカテーテルを用いたB-TACEなどを行っています。
肝動脈より造影剤を注入しながら、肝臓の血管を映します。肝細胞がんは黒く染みのように浮き上がってきます。
肝細胞がんを栄養している血管を同定します。その血管まで細いカテーテルを進め、抗癌剤と塞栓物質を注入します。
進行肝がん(TACEが無効、脈管浸潤・遠隔転移を有する)に対して行われます。わが国では以前より肝動注化学療法(HAIC)が行われてきました。近年は後述する分子標的治療薬が登場し施行頻度は減っていますが、高度脈管浸潤症例やダウンステージングにより手術やRFAなどの根治を目指す症例などにはなくてはならない治療です。当施設では、積極的にHAICを導入し、不応と判断した症例は速やかに分子標的治療へ移行することを行っています。
また、分子標的治療薬も2008年にソラフェニブ(ネクサバール®)が標準治療として登場して以来、17年にレゴラフェニブ(スチバーガ®)、18年にレンバチニブ(レンビマ®)、 19年にラムシルマブ(サイラムザ®)、 20年にカボザンチニブ(カボメティクス®)の治療効果が報告されました。また、2020年には免疫チェックポイント阻害薬と血管新生阻害薬を併用した治療(アテゾリズマブ[テセントリク®]+ベバシズマブ[アバスチン®])が可能となりました。それぞれの薬剤の特性を考慮し、患者さん一人ひとりに合った治療方針を組み立てています。
他の局所療法が困難な症例に対する定位照射のほか、門脈腫瘍栓や遠隔転移例に対する姑息照射を行っています。放射線治療科と協力し治療を行っています。