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消化管疾患

消化管疾患の診療実績

特に上部・下部消化管の区別はありませんが、主に上部消化管は浜辺、五嶋が担当し、下部消化管を橋本が担当しています。外来診察及び上部・下部消化管内視鏡検査は、ほぼ毎日施行可能です。原則として検査は予約制ですが、重症度に合わせ、受診当日に緊急で検査を行うことも可能です。年間約3,500例の上部消化管内視鏡検査と約1,000例の下部消化管内視鏡検査を施行しており、これに加え、治療内視鏡やダブルバルーン小腸内視鏡検査、カプセル内視鏡検査も施行可能です。

診療の中心は、内視鏡治療が可能な早期癌の診断および治療です。上部・下部消化管内視鏡ともに、最新機器を備え、高画質の通常観察や拡大観察及びnarrow band image(NBI)、赤外線内視鏡などの特殊波長内視鏡検査も可能です。また、超音波内視鏡(EUS)を用いた早期癌の深達度診断、粘膜下腫瘍の質的診断や超音波内視鏡下穿針吸引生検(EUS-FNAB)も施行しています。

早期胃癌の内視鏡治療を受けられる入院患者様が最も多く、年間130例(H19年度)あまりの早期胃癌や胃腺腫を対象に内視鏡治療を行っています。近年、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)が開発され、治療頻度が増加していますが、当科において多田らにより開発され、早期胃癌の内視鏡治療の先駆けとなったStrip biopsyによる治療も継続しています。下部消化管では、同様に内視鏡治療の対象となる疾患や潰瘍性大腸炎、クローン病といった炎症性腸疾患の治療が主体となっています。原因不明の消化管出血の原因検索を中心に、カプセル内視鏡やダブルバルーン内視鏡検査で小腸疾患の診断や治療を行う機会が増えてきています。

ESDの実際
EMR/ESD治療件数

下部消化管領域では主に大腸腫瘍、炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病)、小腸疾患に対する診療が中心となっております。
大腸腫瘍に関しては、側方発育型大腸腫瘍と呼ばれる通常のポリープに比較して丈が低く、側方に発育しているポリープが内視鏡機器の発達により診断されることが多くなっております。当院では腫瘍の表面を染色・拡大観察して深達度を推測する拡大内視鏡検査や超音波を用いた検査を行っており、内視鏡的切除の適応について評価しております。
従来の内視鏡的大腸ポリープ切除術に加えて、2012年より早期悪性腫瘍大腸粘膜下層剥離術(大腸ESD)が保険収載され、当院でも適応症例に対しては大腸ESDを積極的に施行しております。

■大腸ESD実施件数
2015年34例、2016年45例、2017年50例

■早期大腸がん内視鏡治療件数
2015年69例、2016年76例、2017年99例

側方発育型大腸腫瘍

小腸疾患

小腸疾患の診断や治療に関しては、当院ではカプセル内視鏡やダブルバルーン小腸内視鏡による検査を施行しておりますので、例えば従来の検査方法では診断不能であった小腸からの出血に対する検査、治療が可能となっております。

カプセル内視鏡検査

26×11mm大のカプセル形内視鏡を内服する検査です。そのカプセルが腸管の蠕動により食道・胃・小腸・大腸を移動する間に毎秒2枚ずつ写真を撮影し、その情報は電波で記録装置に蓄積されます。対象となる疾患は、導入当初は原因不明の消化管出血(上部・下部消化管内視鏡検査を施行しても出血源が不明な消化管出血)のみでしたが、2012年より小腸疾患全体となっています(ただし消化管に狭窄が疑われる症例に関しては実施にあたって条件があります)。当科では平成19年11月より検査を開始し検査数は増加傾向にあります。入院だけでなく、外来でも検査が可能です。カプセルを内服するだけなので、苦痛の少ない検査ですが小腸粘膜面の詳細な情報が得られます。

カプセル内視鏡検査件数

バルーン小腸内視鏡

オーバーチューブと呼ばれる筒の中に約2mの内視鏡を通し、オーバーチューブには手元で操作可能な風船がついています。オーバーチューブと風船を連動することにより小腸全体の観察が可能になっております。カプセル内視鏡検査との違いは、病変に対する治療が可能である点であり、小腸潰瘍等の活動性出血に対しては積極的に施行しております。当院ではオーバーチューブと内視鏡の両方に風船が装着されているダブルバルーン内視鏡と、オーバーチューブにのみ風船が装着されているシングルバルーン内視鏡の両方を所持しており、症例に応じて使い分けております。

バルーン内視鏡症例数

潰瘍性大腸炎

大腸の粘膜に慢性の炎症を生じる原因不明の病気です。主な症状は、血便、粘血便、下痢や腹痛などです。炎症が起きる場所は、直腸を中心として始まり大腸全体にまで広がることがあります。また、長期にわたり良くなったり、悪くなったりを繰り返します。1973年より厚生省潰瘍性大腸炎研究班が発足し、現在の難治性炎症性腸管障害調査研究班となっています。1975年に厚生省特定疾患に認定されました。
年々登録者数は増加しており、わが国では現在18万人を超えております。

治療方針の原則

直腸型:直腸に病変がとどまっている。
左半結腸型:下行結腸までに病変がとどまっている。
全結腸型:横行結腸を越えて病変が存在する。

治療方針について

基本的には潰瘍性大腸炎治療指針改定案に従って治療します。

1)ペンタサ、アサコール、サラゾピリン

これらの薬剤は腸管の炎症を抑制するだけではなく潰瘍性大腸炎に伴う発癌の確率を低下させるとの報告もあり、長期内服による重篤な副作用もほとんどないため、潰瘍性大腸炎治療の中心となる内服薬です。サラゾピリンは坐薬、ペンタサは注腸剤もあります。

2)ステロイド

ペンタサ、サラゾピリンが効果のない症例もしくは重症例に対して使用します。長期内服による副作用があるため、使用はなるべく短期間とします。

3)血球成分除去療法

潰瘍性大腸炎は自分の白血球がなんらかの原因で大腸に集積し炎症を起こす病気ですので、白血球を除去することにより炎症を抑制することが目的です。白血球除去療法(LCAP)、顆粒球除去療法(GCAP)がいずれも保健適応となっております。当院では主に顆粒球除去療法を施行しており、両腕に点滴の針を入れて、約2?大の酢酸セルロースビーズが多く入った筒の中に血液を通してまた体に返すことを約60分施行します。週に2回施行し、最高10~11回施行します。所要時間は約2時間程度です。

4)免疫調節薬

イムラン:ステロイドを減らすと再燃する難治性の潰瘍性大腸炎が適応となります。
効果が出るまでに時間がかかるために、早めに投与する必要があります。
プログラフ:即効性がありますが、血液中の薬剤濃度を定期的に測定して調節する必要があります。投与期間は3ヶ月までとされています。

5)生物学的製剤

抗TNF-α抗体であるレミケード、ヒュミラがクローン病治療に大きな効果を示していますが、潰瘍性大腸炎に対しても使用可能となっています。ただし、治療に難渋する症例に使用が限られております。

6)外科的治療

腸に穴が開いた場合や内科的治療が難しい症例は手術の適応となります。その他、潰瘍性大腸炎により生活の質が著しく低下したり、ステロイドの合計内服量が多くなったりしても手術の適応となります。手術は大腸を全部切除して、小腸の一部で袋を作って肛門につなげることとなります。

日常生活で気をつけること

潰瘍性大腸炎は食事に対するアレルギー反応は関与しておりませんので、重症でなければ基本的には厳格な食事制限は必要ありません。下痢や血便症状のあるときは脂肪や香辛料をなるべく控えて頂きます。精神的ストレスや過労により悪化することが多いため、十分休息をとりストレスをためないようにする必要があります。

定期的な内視鏡検査の必要性

症状が良くなっていても内視鏡所見上は大腸粘膜に炎症を認める場合があり、潰瘍性大腸炎に関連する発癌の危険性もあるため定期的な検査が必要です。

医療費に関して

潰瘍性大腸炎は厚生省特定疾患に認定されており、所得により額は異なりますが医療費補助制度があります。詳しくは担当医までお尋ね下さい。

「クローン病」

1932年にアメリカ合衆国の内科医師であるクローン氏によって発表され、クローン医師にちなんで、「クローン病」と名付けられました。特定疾患申請者数は年々増加し2014年で42,397人となっております。

症例により病変の部位は異なりますが、消化管壁の全層に炎症を起こし潰瘍や瘻孔(腸管と腸管、腸管と皮膚とのトンネルのようなの)、穿孔(腸に穴があくこと)、狭窄(腸管が狭くなること)を形成する病気です。消化管だけでなく全身にさまざまな合併症が発生することもあります。緩解(炎症が落ちついて症状が無い状態)と再発・再燃を繰り返し、根治療法が現段階では存在しないため緩解状態を長く維持するのが治療の目標になります。

重症度とは?重症度判定(IOIBDアセスメント)

緩解の判定は下記10項目の陽性項目が0または1点で血液検査にて炎症反応が正常化した場合となります。この緩解の状態を目指して治療することとなります。
腹痛、1日6回以上の下痢あるいは粘血便、肛門部病変、瘻孔、腹部腫瘤、体重減=少
その他の合併症(関節炎、皮膚病変、眼病変など)、38℃以上の発熱、腹部圧痛、血色素10g/dL以下

治療方針について

基本的にはクローン病治療指針に従って治療しますが、症例ごとで詳細に病状を評価した上で、最適と判断された治療を行います。

1)栄養療法

クローン病は食事中の蛋白質に対して免疫反応を起こすことが明らかとなっていますので、成分栄養といって蛋白質をアミノ酸レベルまで分解したものを食事代わりに内服することにより、腸管内の炎症を抑制することができます。また、脂肪を1日30g以上
摂取すると炎症を悪化させることが明らかとなっており注意が必要です。
※例えば菓子パン1つに20g程度の脂肪が含まれます。

2)ペンタサ

これらの薬剤は腸管の炎症を抑制しますが、粘膜の表面が炎症の中心である潰瘍性大腸炎と比較して、腸管全層の炎症をきたすクローン病においてはペンタサのみで炎症を完全にコントロールすることは難しいです。

3)ステロイド

ペンタサや栄養療法が効果のない症例もしくは重症例に対して使用します。長期内服による副作用があるため、使用はなるべく短期間とします。

4)レミケード点滴静注、ヒュミラ皮下注射

クローン病ではTNFαという炎症を起こす物質が過剰に作られる事がわかってきました。このTNFαを抑制する目的にて開発されたのが、抗TNFα抗体のレミケードやヒュミラです。レミケード、ヒュミラはTNFαの働きを抑えるだけでなく、TNFαを作っている細胞も壊します。外瘻を有する症例や、従来の治療法が効果の無い症例が適応となります。レミケードは通常は初回投与後2週後、6週後の計3回投与し、その後は寛解の状態を保つために8週間ごとに投与します。ヒュミラは常に皮下注射で投与しますが、最初は4本、次は2本、その後は1本ずつを投与します。レミケード、ヒュミラともに炎症のコントロールが難しい場合には倍量を投与することが可能となりました。

5)外科的治療について

腸管穿孔をきたした症例や、狭窄をきたした症例は手術の適応となります。しかしながら、腸管を切除しても他の部位に同様の炎症が起こる可能性があるため外科的治療は止むを得ない場合のみ適応となります。

日常生活で気をつけること

クローン病は精神的ストレスや過労により悪化することが多いため、十分休息をとりストレスをためないようにする必要があります。食事内容も重要でありぜひ栄養指導を受けてください。また、喫煙によっても病状が悪化することが明らかとなっておりま
すので禁煙をお勧めします。

医療費に関して

クローン病は厚生省特定疾患に認定されており、所得により額は異なりますが医療費補助制度があります。詳しくは担当医までお尋ね下さい。